アイザワさんとアイザワさん

「お父さん…」

「お前が結婚しちゃいけない理由なんてどこにもないんだよ。玲子だってそう思ってるはずだよ。」

ほんとうにそうなのかな?

私だけがしあわせになるのは許されないことじゃないのかな?

お兄ちゃんと初花ちゃんを引き合わせて…二人を苦しめてしまったのは私なのに。



***

『今日も用事があるの。ごめんね。』

昨日スマホから送信したメッセージを見て、私はため息をついた。

あのプロポーズから2週間。鈍い彼だって、さすがに避けられているってことには気がついているはずだ。


今日は本社からの申し送りや新商品のチェックがあって社員が店舗を回るから、善ちゃんに会うことは避けられない。

きっと気分を悪くしているだろうな…もうプロポーズなんてナシになって最悪別れを切り出されるかもしれない。


仕方ないことだ、と思う。私は好きな人を失っても大事な人を守らないといけないんだから。


15時。黒い仕事用のカバンを持ち、スーツを着た『本社の社員』仕様の善ちゃんが現れた。


その表情は固く、やっぱり怒っているのだと緊張した。

< 325 / 344 >

この作品をシェア

pagetop