アイザワさんとアイザワさん

申し送りと店舗のチェックを一通り終えると、「ちょっといいかな」と善ちゃんは私をスタッフルームへと呼び出した。

「鞠枝ちゃん…『今日』は用事はないよね?…18時には帰れるから、僕の家で待っててくれる?」


そう言って私の手に鍵をそっと乗せた。
ちゃんと話をしよう、って事なんだね…

私は覚悟を決めて、うん、とうなずいた。


***

久しぶりに訪れた善ちゃんのアパートはきちんと片付けられていた。

割と仕事のものとかが乱雑に置いてある印象だったのに…。私達の関係も同じように整理しようとしてたりして…なんてつい余計なことまで考えてしまう。

18時半、善ちゃんが仕事を終えて帰って来た。

「遅くなってごめんね。お腹空いてない?適当に買って来たよ。」

優しい言葉をかけてくれるけど、相変わらずその表情は固い。

「ご飯はまだ大丈夫。善ちゃん、話しようよ。」

もし、このまま一緒にいられない、そんな話だったらこれ以上そばにいるのは辛い。

私の言葉に緊張した面持ちでそっか…と言ってうなずくと、善ちゃんは仕事用のカバンの中から紺色の小箱を取り出した。


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