アイザワさんとアイザワさん

説得は一晩コースだわ…覚悟して口を開く。

「善ちゃん。私、プロポーズ断ったよね?」

「うん。ショックだったなぁー。喜んでもらえるとばっかり思ってたからね。」

「私、今日別れ話されても仕方ないと思いながら来たんだよ。」

「どうして別れるの?僕は鞠枝ちゃんと結婚したいんだよ?…鞠枝ちゃんは僕と別れたいの?」

「別れたくない…でも結婚することはできない。」

「どうして?」


…だめだ。全然手応えがない。話が通じなくてだんだんイライラしてきた。

「だから…私が結婚したら初花ちゃんのそばにずっといられなくなるじゃない!善ちゃんが転勤したらここを離れなくちゃいけなくなるでしょ!!私はここを離れる訳にはいかないの!!」

思わず声を荒げてしまった。

…怒った?

おそるおそる善ちゃんを見ると、やっぱり彼はにっこりと微笑んでいた。


「やっと鞠枝ちゃんの本音が聞けた。」

「あのね、鞠枝ちゃんの気持ちは分かるよ。馨くんとも…知らない仲じゃないし、鞠枝ちゃんが今までどんな気持ちで過ごしてきたのかも僕は知ってたよ。」


でもね、と彼は続けてこう言った。

「鞠枝ちゃんの人生は鞠枝ちゃんだけのものだよ。相沢さんだっておんなじ。傷を抱えるのも、それを癒すのも結局は自分の人生の中で何とかしなくちゃいけない。」

「懺悔の気持ちを抱えたまま鞠枝ちゃんがそばにいたってお互い苦しくなるだけだよ。」
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