アイザワさんとアイザワさん

2月14日。バレンタインデー当日。

今日のシフトは私が夕方までの日勤で樹さんは夜勤明けだ。

「19時くらいに行くから。」スタッフルームを出るときに呼び止められてこっそり耳打ちされた。

樹さんはいつも何時頃行くよ、行ってもいいかな?とちゃんとメールや電話で聞いてくれる。

そういうきちんとした所は安心できるし、好きだなぁと思う。


彼の驚いて喜ぶ顔が見たい。
私はアパートに置いてあるプレゼントを思い出して、一人でニヤニヤしていた。

「顔がゆるんでるわよ。」

今日の相方、柏谷 茜さんに指摘されて慌てて接客用の笑顔に切り換える。そんな私に茜さんは「呑気なもんね…」と言った。


意味が分からず「どうしてですか?」と聞いてみる。


「初花ちゃんを今日の勤務にするなんて店長もバカね…まぁ、そのうち嫌でも分かるわよ。」


茜さんはそう言うとニヤリと笑った。


***

17時半。仕事を終えた私は余計な荷物を1つ抱えてアパートに向かっていた。

その荷物とは紙袋。コンビニで売っているものだ。
レジ袋だと入りきらないし、中身が分かってしまうし…仕方がないから買ったのだ。


紙袋代は樹さんに請求しよう。絶対にそうしよう。
ケチだと思われても構うもんか。


だって中身は…全部樹さんへのチョコレートなんだから。
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