アイザワさんとアイザワさん

「リクエストがねぇ…『オレンジピールのケーキは絶対に入れて下さいね。』だもん。このケーキって、相澤さんのお気に入りじゃない?分かっちゃったわ。」

私の真っ赤になった顔を見ながら、志帆さんも声を落としつつそう言った。

どうやらカフェスペースにいる木村くんに聞こえないように二人とも気を遣ってくれたようだった。

だから小山さんは『相沢さん』じゃなくて『初花ちゃん』と呼んでくれたんだ…


大きい箱は二人で楽しんでね。
小さい箱は秘密だよ。


にっこりと笑ってそう言いながら、小山さんは人差し指を立てて口唇に当てた。その仕草にキュン死にしそうになってしまったことも、焼きもち焼きの樹さんには絶対に秘密にしておかないといけない…

イケメンパティシエは、罪なオトコだ。


***

18時半。私は『秘密の小箱』を眺めながら1人でニヤニヤしていた。

中には可愛らしいトリュフが5つ。どうやら小山さんのお手製らしい。
パティシエさんはショコラティエさんにも変身できるようだ。

1つ、つまんで食べようかどうしようか悩んでいると玄関のチャイムが鳴った。

えっ?樹さん、来た?
約束の時間よりちょっと早い。
少しだけ慌てた私は、思わずトリュフを口に入れてしまった。

…小山さんが樹さんには食べさせちゃダメって言った意味が分かっちゃった。

『秘密』なんて言ったからドキドキしたけど、そういう事だったのか…

私は小箱をキッチンに隠して、玄関へと向かった。




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