アイザワさんとアイザワさん
「ごめんな、ちょっと早かっただろ。」
中に入るなり、樹さんはそう言った。
確かにちょっと早かったけど、そんなに気を遣わなくても大丈夫なのに。
「大丈夫ですよ。結構余裕ありましたから。」
それに…
樹さんに気にして欲しい事は、時間の早い遅いなんてことではないのだ。
私は無言で紙袋を樹さんに持たせた。
ここまで持ち帰って来た時よりもずっしりと重い気がしたのは、この袋いっぱいに詰め込まれた『気持ち』の重さだと思う。
「…何だよ、これ。」
「お客さまからのチョコですよ。全部。」
「はぁ…?…俺に?」
「えぇ。全部『店長様』にですよ。」
そこまで会話して、ようやく私が不機嫌な気持ちでいることに気がついたらしい。
間近でじっと私の顔を見つめて
「初花。…妬いてんの?」
とその一言だけを口にした。
わざわざ口にする所が憎たらしい。
しかも、ちょっとニヤニヤしている。
…自分だって焼きもち焼きのくせに。