アイザワさんとアイザワさん
6年も同じ所で働いていると、仕事内容もそうそう変わらないし、商店街の常連さんも優しいし、オーナーの生方(うぶかた)さん一家との関係も良好。全てうまくいっている。
平和で、ぬるま湯に浸かっているような毎日だ。そして、私はその湯を結構気に入っていた。
適温だった……出て行きたくなくなるほど。
***
「わざわざ残ってもらってごめんね。疲れてるのに。」
仕事を終えたスタッフルームで私に声をかけたのはオーナーの生方 茂之(うぶかた しげゆき)さん。私の父親と同じ年ということもあって、私のことも娘のように可愛がってくれている。優しく、頼りがいのあるおとーさん、と言った感じの人だ。
「実は話って言うのはね…鞠枝のことなんだけど。」
鞠枝(まりえ)さんと言うのはオーナーの娘さんで、この店の副店長さんだ。二つ歳上の鞠枝さんは、年が近いので、私は鞠枝さんとも仲良しだった。
……だから、オーナーの次の言葉も、実はちょっと予想できていた。
「妊娠、したんだよね……」
……やっぱり、そうか。