アイザワさんとアイザワさん
たぶん私に向かって話した言葉では……ないはずだ。相澤の目は閉じられたままだった。
さっき、好きな人がいるって言っていた。
誰かを想って涙を流している……の?
そう思った瞬間、心臓がドキン、と音を立てて跳ねた。
その衝動に身体を突き動かされるように、私は相澤に近づくと……溢れた涙をすくうように、そっと頬にキスをした。
その後、一瞬で我に返った。
……私、私、今何をした?!!
動揺した私は、もつれる足を必死で動かし、転がるようにして部屋を後にした。
自分のしたことが信じられなかった。
でも、確かに相澤の涙を見たあの瞬間に何かの引力のように自然と彼に引き寄せられてしまったのは、事実だった。
……私の知らない誰かを想って流した、その目からこぼれ落ちた涙をとても綺麗だと思ってしまったから。
そして涙を目にした時に、心の中に何かの感情が芽吹いてしまったのを、確かに私は感じていた。
それは、まだ何の感情にも育っていない、小さな小さな芽だった。