アイザワさんとアイザワさん
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目を覚ますと、すっかり空は明るくなっていた。ちゃんと自分の部屋のベッドに横になっていたけど、どうやって家に帰ったのかは全く覚えていなかった。
帰った状態のままでベッドに横になってしまったらしい。だるい身体を起こすと、着ていた服からふわっとシトラスの香りがした。
その瞬間、胸がギュッと締め付けられた。
私は思わず自分の身体をきつく抱き締めた。
……これ以上、余計な感情が溢れ出して来ないように。
時計を見ると9時を回っていた。相澤は今日は日夕勤のはずだ……もしあのまま酔いつぶれてしまっていたら出勤は難しいだろう。
もしものことを考えて出勤の支度をしていたら、オーナーから電話が入った。
「相沢さん、昨日はありがとうね。樹はもう大丈夫だから。心配してるかと思ってね。」
お酒は抜けたらしい。ほっと胸を撫で下ろした。
「あのさ、相沢さん。一応聞くけど……昨日樹のヤツ何もしなかったよね?」
様子を伺うようにオーナーが聞いてきた。
「なっ、何もしてないですよ!」
焦って変な口調にならなかったかな?
嘘はついてない。
だって『相澤は』何もしていない。
何かしたのは私だ。
動揺を悟られないように、私はそそくさと電話を終えた。
相澤とも気まずいなぁ……
気づいてないだろうけど、勘がいいところがあるから、次のシフトで一緒になった時に動揺しないようにしなくちゃ……
この複雑な自分の感情と状況を整理するのには、しばらく時間がかかりそうだった。