アイザワさんとアイザワさん
「その気はねぇよ。」
俺も乱暴に言葉を返す。
「大体お嬢さん、って歳かよ。生方さんの娘でもないだろ?」
俺の言葉に叔父さんは眉をひそめながら「生方さんにとっては鞠枝さんと同じくらい大切な子なんだよ。……お前だって知ってるだろ?」と言った。
……知ってるよ。
そう思いながら、俺は昨夜の記憶を辿っていた。
俺を軽々と支えた時にやっぱり流石だな、と思ったこと。
柔らかな肩の感触。
たまに頬をくすぐる髪から香る甘い匂い。
時折、心配そうに俺を見つめる顔。
…手を出さなかった自分を褒めたいくらいだ。
そこまで考えて、待てよ?……と思った。
時折夢の中に入り込んでしまい、記憶はおぼろげだったが、誰かの口唇が頬に触れた感触があった。
……いや、まさか、な……そんな訳がない。
だけど、気になってしょうがない。
それはささやかな感情だった。あえて名前を付けるとしたら『好奇心』の小さな芽、のようなもの。
一緒に働くようになって3ヵ月。俺は初めて『相沢初花』に興味を持った。
…だけど、俺の『好きな人』はお前じゃない。
お前じゃないんだよ。