アイザワさんとアイザワさん
慌てる私にオーナーは静かに言った。
「子どもが産まれたら、鞠枝は今までみたいに働けないし。私も妻を亡くしたしね……」
去年、オーナーの奥さんの玲子(れいこ)さんが病気で突然亡くなった。玲子さんとも同じシフトで働いて何年もお世話になっていたので、私もとてもショックだった。
「今は『店長』も居ないし、私もこの年でオーナーと兼務は辛くてね……」
気持ちは充分に分かった。
でも……このお店閉めちゃったら私はどうなるの?ほんとの娘みたいに可愛いって言ってくれたのに。
……娘見捨てるんですかぁー!!
半べそをかきながらオーナーを見つめる私に、オーナーはこんな話を切り出した。
「で、初花ちゃんさえ良かったらなんだけど……」
「新しいお店で、副店長やってみない?」
「へっ??」
斜め上にたどり着いたと思っていたら、さらに話には斜めが存在していたらしい。
「ここ、商店街の入り口で立地もいいでしょ?本社に閉店の相談したら、このお店をそのまま引き取ってもいい、ってオーナーが現れてくれたんだよね。で、初花ちゃんをそのまま働かせてくれるのを条件にして、この話受けようかと思ってるんだけど。どう?……悪い話じゃないと思うんだけどなぁ。」