アイザワさんとアイザワさん
「それに、この人は彼氏じゃないから。」
私がそう言うと「で、実際はどうなんですか?」と木村くんは相澤の方を向いて聞いた。
相澤はただ、にこりと微笑んだだけだった。
……だから、その微笑みをやめろー!!
私はジロリと相澤を睨んだけど、そんなことも気にせず、目の前の男は涼しい顔をしている。
その時、厨房のほうから怒りの声が聞こえた。
「ちょっと木村くん!あっちのほうに戻ってよ!!」
そう言ったのは、この店のオーナーの藤井 志帆(ふじい しほ)さんだ。ショートカットが似合う、細身の美人だ。そして、私よりも背が高い。
あっち、というのは店内に隣接しているカフェスペースのことで、パンやケーキを売っている店舗とは棟続きになっている。
木村くんはカフェスペースのほうでウェイターをしているのだけど、どうやら店に入って来た私達を見て、仕事を放り出してこちらに来てしまったようだった。
怒られた木村くんは、まだ何か言いたげにしていたけど、しぶしぶとカフェスペースの方へと戻って行った。