アイザワさんとアイザワさん

「はじめまして。相澤です。ここが初花の今いちばんのお気に入りの場所だって聞いて、どうしても来たくなっちゃったんですよね。」


今さらっと名前!名前で呼んだよね?!

……しかもそんな会話は、した覚えがない。


お酒が一滴も飲めない相澤は、実はかなりの甘党だった。この前の件を許す代わりにおすすめのケーキ屋を教えろ、と半ば脅されるように言われてここに来たのだ。


この嫌がらせはいつまで続くんだろう……

「あら、初花ちゃんのお兄さんなの?」

「違いますよ。」

なんて話している二人の横で、私は今日何度目になるか分からないため息を吐いた。


いつもは大きな窓があるテーブル席がお気に入りのカフェスペースも、コイツと一緒の所を誰かに見られたらと思うと座る気になれない。


私はさっさとカウンター席に腰かけた。


「あれ?初花ちゃん珍しいね。こっちに座るの。」そう私に声を掛けたのはバリスタの陽介(ようすけ)さんで、志帆さんのお兄さんだ。

志帆さんよりも少し優しい顔立ちで、銀縁眼鏡の似合ういつも穏やかな雰囲気の人だ。


「今日は陽介さんと話しよっかな、って思って。」

と私が言うと「隣にいい男がいるのに、俺と話したいなんて言っていいの?」と返された。


「大丈夫ですよ。普段彼女がどんな風に過ごしてるか知りたいんですから。」

そう相澤はしれっと口にした。


やっぱり連れて来るんじゃなかった……
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