アイザワさんとアイザワさん
相澤は私に近づくと、私の口を下からぐっと持ち上げるように口唇を重ねてきた。
「逃げないんだな」
一旦口唇を離した相澤は、そう言って微笑んだ。その綺麗な微笑みを見た瞬間、心臓がキュッと音を立てて跳ねた。
それから、私達は何度もキスをした。
角度を変えながら何度も口唇を重ねる度に、頭の後ろに回された大きな手が、長い指が、髪に絡まる。
口唇を割って絡め取られていく舌と、髪を掻き分けていく指の感触の気持ち良さに、目眩がした。
いつ誰がやって来るかも分からない外で、そして自分の部屋の前でキスをしている。
頭はひどく冷静で、その状況をおかしいと何度も思っているのに、身体はもっともっと、と求めることをやめなかった。
「これ以上したら止めらんなくなるな。」
どれくらい時間が経ったのだろう。そんな言葉でようやく私の口唇は解放された。
やっぱり分からない。相澤は……どういう気持ちで私に近づくのか。……こんなことをするのか。
「……どうして」疑問が思わず口をついて出る。
「お前に興味があるからだよ。」
相澤はあっさりと答えた。
「『恋』に近づこうとしないのに、恋に浮かれたように『イケメン好き』なんて言ってるお前に興味を持ったんだよ。」
「どうしてだって?俺も聞きたいよ。現実に近づこうとしないお前がどんな気持ちでキスしてんのか。この前も……今も。」
それだけ言うと相澤はすぐに私に背を向けて帰って行ってしまった。
『興味を持った』って……。私がどんな気持ちでキスをしたか……その答えが出るまで私は相澤に振り回されるの?
……胸が軋むように痛い。心の箱が開きかけている。
私は、慌てて無理やり鍵をかけ直した。
きっと、今箱を開いたら、私の心は壊れてしまう。そうなったら、私は私でいられなくなってしまう。
……心が壊れるのは嫌だ。