アイザワさんとアイザワさん

お店の資材庫と備品庫はひと続きになっていて、スタッフルームとは繋がっているけど、カメラからは完全な死角だ。

働きはじめた頃に、これじゃ盗み放題じゃん、と思った記憶がある。


……もちろん、やらないけどね。


ただ『盗む』以外の『イケナイこと』に使える空間だとは思ってもみなかった。


資材庫で、二人で備品の整理に追われているとふと隣からの視線を感じた。

ん?と思って横を見ると相澤がじっと私の顔を見つめていた。


……あ、まただ。


そう思うと私は目を閉じる。
『どうぞ』と合図をするように。


すぐにそっと口唇が触れる。
そして、すぐに離れていく。


あの日以来、私達はこうしてキスをするようになっていた。


私から触れることはない。相澤が『したい』と思った時にする。そんなキスだ。


だから、これは恋人のように気持ちを確かめ合うキスではなくて、たぶん『どんな気持ちでキスしてんのか』を知るためのキスだ。


まだその答えは出ていない。

だから、キスは続いている。
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