アイザワさんとアイザワさん

あの日のような深く、内側を探られるようなキスじゃなくて、触れるだけ。


それ以上は求められることはなかった。


だけど、キスをされるたびに相澤に対して芽吹いた感情がだんだん大きくなっていくようで、私は何だかそれが怖かった。


少しずつ水を与えていくようにキスが繰り返されて、何かの感情が育っている。


私はそれを見ないふりをしている。
見てしまったら……心の箱が開いてしまう。そんな気がして。


でも、私はなぜかキスを拒むことができない。


自分の気持ちも分からないけど、相澤の気持ちはもっと分からない。


あんなに切ない涙を流すほど好きな人がいるくせに、この人はどんな気持ちで私にキスをしているんだろう……


たぶん、私がキスを拒めないのは、相澤の気持ちも知りたいと思っているからだ。


「……ぼんやりすんな。とっとと手を動かせよ。今日中に終わらないぞ。」


考えこんでいたら、相澤に怒られた。


……ほらね、相澤は普通だ。さっきキスしたばっかりなのに、ほんとは何もなかったんじゃないの?って思うくらいに。


やっぱり私には相澤 樹という人が、相澤 樹の気持ちが……理解できない。

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