アイザワさんとアイザワさん

8月下旬。

私は実家の近くに来ていた。実家に帰るわけではない。おばあちゃんのお墓参りに行くのだ。 そのための待ち合わせだ。


「よう、初ちゃん。……じゃ、行くか。」


私は『家族』とは一緒にお墓参りに行くことはない。いつも源ちゃんと一緒に行く。

源ちゃんと、生方さん一家が私の『心の家族』だ。他はいらない。

おばあちゃんが亡くなった時にそう決めた。


私はお盆の時期にはここには来ない。
『家族』に会うのが嫌だから。
でも、そんな心配はいらないよ、と言っているようにお墓にはしばらく誰も来た跡がなかった。

そして、「佐知子ちゃんも、しょうがねぇな。……まだ来られないのか。」と源ちゃんが呆れたように言う。それがいつものパターンだった。


しかし、今年は違っていた。
お寺の隣にある墓地を進む。少し奥まったところにあるお墓の周りは綺麗に掃除されていて、花まで飾られていた。


「あれ?佐知子ちゃんが来たのか?ずいぶん綺麗になってるじゃねぇか。」と源ちゃんが驚いた様子で話す。


……違う。『母親』じゃない、と私は思っていた。

だって、向日葵の花が飾られている。

おばあちゃんが私の花だって言ってた向日葵を……私のことを嫌いなあの人が飾るはずがない。

誰だろう?考えられるとしたら……大先生(おおせんせい)かな。先生がここに来てくれたのかな?

大先生とは、おばあちゃんが通っていた精神科の病院の先生で、私の辛い記憶に『心に箱を作りなさい』と教えてくれた人だ。

< 74 / 344 >

この作品をシェア

pagetop