アイザワさんとアイザワさん
「私のかわいいヒマワリちゃん。」
おばあちゃんの声が聞こえる。
小さい頃は、そんな風によく呼ばれていた。
そして、亡くなる何年か前からも。
おばあちゃんの心は、その時、昔の世界の住人になっていた。
おばあちゃんの心の中では『相沢 初花』はいつも5歳の小さな子どもだった。
***
私が高校2年の時。
始めは些細な変化だった。
昨日言ったことを覚えていなかったり、買い置きがあるのに同じものを何個も買ってきたり。
普段しっかりもののおばあちゃんには珍しいことで、「嫌だ。年とっちゃったねぇ。」なんて笑いながら言ってた。……そう、最初は笑い話だったのに。
その内に、だんだんと笑えないことが起こってきた。源ちゃん達と映画を観に行くと言って出掛けた夕方に、交番から電話がかかってきた。
買い物をしてから帰るから、と源ちゃんとアーケードの前で別れて……そのまま道が分からなくなったのだ。
そして、その辺りから坂道を転がるようにおばあちゃんは変わっていった。
その急激な変化にいちばん戸惑ったのは私の『母親』だった。小さい頃から私にとっては優しいだけのおばあちゃんだったけど、『母親』にとっては厳しい人だったから。
『母親』は実の母のその変化を許すことができなかったんだろう。現実から逃げた。
そして、私の『父親』はそんな私達家族から逃げるように単身赴任で居なくなってしまった。