アイザワさんとアイザワさん
ちょっと北寄りの地域には珍しく、うちには夏みかんの木があった。
おじいちゃんの実家のほうから苗木を持ってきたらしく、おじいちゃんが亡くなってからも、おばあちゃんが大事に大事に育てていた木だ。
普通に食べるのにはちょっと酸っぱいその夏みかんの実を、おばあちゃんは全部マーマレードジャムにした。おばあちゃんの作る甘酸っぱくてほろ苦いマーマレードジャムは、私の大好物だった。
いくつものちいさな瓶に詰められたマーマレードは、オレンジ色でキラキラしていて、まるで宝石のようだった。
出来上がったジャムは近所に配ったり、源ちゃんやお友達にあげたりしていた。……そう言えば、デイサービスに持って行ったこともあったっけ……
私は、毎年それを大事に、大事に食べた。
それでも、いつもこの時期には無くなってしまう。最後のひとすくいを食べる時には、いつも寂しい気持ちになった。
その気持ちを思い出した。
おばあちゃんが昔の世界の住人になってからも、以前からの習慣はよく覚えていたようで、マーマレードを作る、ということも、作り方も忘れなかった。
その頃から私もジャム作りを手伝うようになった。実家暮らしで、あまり料理をしなかった私は、おばあちゃんと並んで台所に立ったのは、このジャム作りの時だけだった。
料理上手なおばあちゃんに、もっといろいろと教えてもらえばよかった……今ではとても後悔している。