アイザワさんとアイザワさん

慌てて鞠枝さんの所に行こうとする私を陽介さんは「注文聞いたらお渡ししますからね」、と鞠枝さんに向かって声をあげて止め、私にしか聞こえないように声を潜めてこう言った。


「初花ちゃんは勘が鋭いから、見えないとこまで深く見えるし考え過ぎちゃうでしょ?もっと肩の力を抜きなさい、ね。」


そう言うと、注文を聞くことなく作り始めた。


エスプレッソの上に、泡立てたミルクを浮かべてカフェラテを作ると、チョコレートシロップを使って模様を描きはじめた。すると、カップの中にあっという間に花が咲いた。


すごい!と感心している私に、「何か悩んで疲れてたみたいだから。常連さんの初花ちゃんだから、これは特別サービス。ごゆっくりどうぞ。」と陽介さんはそう言ってカフェラテを渡してくれた。


美味しそうなカフェラテに気分が上がる。
でも、次の言葉を聞いて私はちょっと固まってしまった。


「だから、大切な人以外の心をあんまり見ようとしちゃダメだよ。」


見抜かれてしまった……


陽介さんって、確か相澤と同じ年のはずだ。
茜さんもそうだけど、30代になると……なんとなく心を隠すのが上手になるのかな……


でもね、陽介さん。『大切な人』が誰なのか、そもそも何なのかよく分からないから、私はこんなに悩んでるんです。


そう心の中で反論しながらも、私は「おまたせしましたー」と鞠枝さんの所へと向かって行った。

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