アイザワさんとアイザワさん

鞠枝さんはもう臨月だ。ただ座っているだけでも『妊婦さん』という感じで迫力がある。

「もうお腹が苦しくって、靴下も一人で履けないのよー。寝ててもおかまいなしでお腹蹴ってくるし。早く生まれて!って感じよ。」

そうなんだ……

しあわせそのものに見えるこの姿も、目に見えない苦労が、いっぱい存在するらしい。


「じゃあ、初花ちゃん。本題ね。」


今日、私は鞠枝さんから話があると呼ばれていたのだ。

「いい話題と、悪い話題があるの。直接話したいけど、いい?」と。


「『いい話題』から。……善ちゃんね、転勤の話無くなったわ。これからも駅前店のエリアマネは善ちゃんだよ。」


私はほっと胸を撫で下ろした。2~3年に一回くらい、エリアマネージャーの移動がある。
仙道さんはうちの店を担当して3年目になるし、担当する店舗のスタッフと結婚した仙道さんは、移動の筆頭候補だったからだ。


一旦移動すると、東北のどの地区に行くか分からない。家族も当然一緒に付いて行くことになる。


仙道さんが心配……と言うよりは、移動で鞠枝さんと離れなければいけなくなるのが寂しかったのだ。
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