アイザワさんとアイザワさん

生方家は家族経営で、お兄さんの馨さんが店長を、妹の鞠枝さんが副店長をしていた。

茂之オーナーは時々店を手伝って、玲子お母さんはスタッフとして入っていた。

これが私が駅前店でアルバイトを始めた時の生方家のスタイルだった。


鞠枝さんは玲子お母さん似で、キリッとした美人だけど、馨さんは茂之お父さんに似て、優しげで、どちらかと言えば可愛らしい顔立ちをしていた。鞠枝さんとは5歳年が離れていたけど、二人はとても仲が良かった。


私が高校卒業と同時にアルバイトを始めて、半年ほど経った時だった。


***

「相沢さん、ちょっといいかな?」

私は、鞠枝さんに連れられてコンビニ近くのコーヒーショップに来ていた。

プライベートでこうして二人で話をするのは始めてで、私は何を言われるのかと、とても緊張していた。

「そんなにびくびくしないでよ。あのね、相沢さんって、今彼氏いる?」


えっ?と思いながらも答える。


「いませんけど……」


小さな頃はおじいちゃんおばあちゃんに囲まれて育ち、高校は女子高だった私に出会いはなかなか訪れなかった。

好きな人はいたことはあったけど……それでもこの年まで彼氏がいたことはなかった。


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