アイザワさんとアイザワさん

「ちょっと、源さん。私も残りますからね。よろしくね。」

そう声をかけたのは、私の今のシフトで主に相方として入っている柏谷 茜(かしわや あかね)さんだ。主婦で一児の母でもある彼女は、私たちにとってはしっかり者のお姉さんといった感じの人だ。その性格とは違って、見た目は童顔でとても可愛らしい。本人はそれが悩みらしいけど。


「やっぱり、辞める子もいるのかい?」と源ちゃんが聞いた。


生方さんの家は家族経営だ。シフトに穴が開いたら結構すぐに入ってもらえたし、例えば茜さんが子どもの予定があって一時間だけずらして入りたい、なんていう時も柔軟に対応してもらえた。


今度のオーナーさんは、なかなかそうはいかないようで、シフトの時間もほぼ朝日勤、日夕勤、夜勤の三交代制で固められていた。そこに引っ掛かって「辞めます」と言う子もいた。


ドナドナの荷馬車に乗るのは私と茜さん、そして夜勤の九嶋(くしま)くんだけだった。


新店舗のスタッフは、これから来る店長を入れてもまだ4人。新体制になって、新しくスタッフを雇って、研修して……



考えただけで吐き気をもよおしそうだった。



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