アイザワさんとアイザワさん
「いいと思うよ。『新しい恋』。」
……鞠枝さんには何もかもバレてしまっている。きっと、私が馨さんと別れてから『恋』を避けていることにも気づかれてしまっている。
「『心の恋人』なんて言ってないで、そろそろ現実を見なさい。……お母さんならそう言ってると思うわよ。」
……一年前、私が木村くんに告白された時、運悪く夕勤の子にその様子を見られてしまった。
あっという間にスタッフみんなにバレて、みんながさんざんからかってくる中で、玲子お母さんだけが悲しそうな顔で「ちゃんと『恋』しなさいよ。」と言ってくれたのを思い出した。
最初は真剣な告白に揺れていた。
でも、木村くんの可愛いらしい笑顔や時折見せる穏やかな表情を見ていると馨さんのことを思い出してしまって、どうしてもうなずくことができなかった。
馨さんに新しい恋人ができたことは鞠枝さんから聞いて知っていた。
「辛い日々を支えてくれた人、だって。初花ちゃんには嘘をつきたくないから、正直に教えるわ。」
そう聞いて、馨さんに辛い思いをさせてしまったことを申し訳なく思った。そしてしあわせになって欲しいと願った。
……恋する心はとっくに無くなっていたのに、顔を会わせられなかったのは単純に、私が弱かっただけだ。