【短編】好き、です。
音楽室で
誰もいない、シャットアウトされたこの部屋に私の指先から紡がれる音だけが響く。
お昼休みのこの時間、私は一人、音楽室でピアノを奏でる。
鍵の開け閉めを管理する代わりに先生から許可をもらった。
この時間にピアノを弾くのは私の1日の日課になりつつある。
心地よく身体を通りぬける音に胸を躍らせながら軽く目を瞑ったその時、
ガチャリと言う音が流れを崩した。
普段はない、いきなりの出来事に動きが止まる。
その方向を見ると、ドア付近に1人の男子生徒が立っていた。
上履きが赤だから二年生。
先輩だ。
手には何を持っているというわけでもないし、授業があるのではないのだろう。
どうしたものかと考えていると、その人が口を開いた。
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