【短編】好き、です。

あ、髪…



うつ伏せになっていた体をゆっくりとおこす。



「あー、ほんと馬鹿ねぇ。謝ればこんな事しなかったのに」



うふふ、と笑みを讃える彼女。



馬鹿はどっちだ。



床に散らばっている髪の毛を一人見つめ続ける。



…あぁ、ここは空気が汚い。



気持ち悪い。



早く出よう、と床に転がっているバックを取り立ち上がる。



「本当、謝るって事を知らないのね。親の顔が見てみたいわ。どうせあんたと同じ顔のクズなんでしょうけど」



わざとらしくそう言った稲沢。



無視すれば良かったのだが、私はその言葉に反射的に反応してしまっていた。




「殴るの?それならご自由にどーぞ?チクられて困るのはあんたの方なんだか…」



「黙れよ」



稲沢の襟元を掴んだまま言葉が溢れた。



「なに?お前さ、今私の親がクズだって言った?」



「…えぇ。まともな教育をされてないからこんな事が出来るんでしょう?」




一拍遅れて稲沢が答えた。



強気な態度はそのままなものの、明らかに動揺している。




…くだらない。



お前が私にやってきたことは「こんな事」じゃないのか?



駄目だ、怒りが収まらない。



止めようとはするものの、口は勝手に言葉を紡いでいた。



「お前に一つ教えてやるよ」




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