【短編】好き、です。
「ねえ、君さ、いっつもここでピアノ弾いてる?」
「…弾いてますけど」
なんだこの人、いきなり。
やけにニコニコしてるし。
私が不審に思っているのに気がつかないのか、その男はなおも話を続ける。
「やっぱりかー!外にいるとよく聴こえるからさ、誰が弾いてるのかなーと思って来てみた!」
来てみた…って、男子のくせに可愛いな。
どうやらこの男、俗にいうフレンドリーな人らしい。
「はあ、そうで…」
「あ、俺二年の川崎葵って言うんだ。よろしくね!」
…いや、ただ空気を読めないだけかもしれない。
私の言葉を途中で遮りやがったぞこいつ。
じとっとした目で見るが、川崎葵先輩は爽やかな笑顔を向けるだけだ。
どうやら、私も自己紹介をしろということらしい。
心の中でため息をつき
「一年の竹内雫です。」
と素っ気なく答える。
「雫ちゃんね!よし、覚えた。ところでさ、雫ちゃんはここでご飯食べてるの?」
川崎葵先輩の視線はピアノの上に置かれた弁当箱に向いている。