【短編】好き、です。
雨の降っている日だった。
しとしとなんてものじゃなく、激しい雨が降っていた。
早朝から鳴っている電話の音に叩き起こされ、一階に下りて受話器を取ると、
そこから聴こえてきたのは受け入れがたい話だった。
「私が今こうして過ごせているのは叔母さんのおかげ。けど叔母さんはお金を渡してくれるだけで家族じゃない。私の様子を見に来てくれた事なんて一回もない」
今は掴んでいてもしょうがないとでも言う様に、稲沢をパッと突き放した。
「私の親は酷い人かも知れない。だって私だけを残して死んじゃったんだから」
無情にも、雫が微笑んだ。
しばらく雫が口を閉じて俯き、辺りには沈黙が訪れた。
「…稲沢」
今まで伏せていた目が稲沢に向いた。
「お前は、そんな私の親をクズだって言ったんだよ」