【短編】好き、です。
雫は軽蔑の目を稲沢に向ける。
稲沢は手を握りしめ、喉を震わせながら言った。
「…ご、ごめん、なさ…」
「謝るくらいなら最初っからすんじゃねーよ」
冷たく言い放って教室を出る。
歩き始めると、すぐに教室から泣き声が聞こえてきた。
何であいつが泣いてんだよ。
あー、気持ち悪い。
感情のままにいつもより足音を響かせながら歩いていたら、無意識のうちに音楽室に来てしまっていた。
鍵を開けて中に入り、バックを投げ捨ててそのままピアノに向かう。
鍵盤の冷たさが指から伝わってくる。
そして、今度もまた無意識のうちに音を奏でていた。