【短編】好き、です。
「止めろよっ!離せ!嫌だっ…弾かなきゃいけないのにっ…!」
抵抗するも、力で男子に敵うはずもなくずるずると引きずられていく。
そして音楽室の端に来たところで無理矢理座らされた。
「雫ちゃん、落ち着いて。これ、誰にやられたの」
私の目をまっすぐに見つめたまま、葵先輩の手が私に向かって伸びた。
その手は、肩くらいにまで短くなってしまった髪に優しく触れる。
「……クラスの女子」
息を大きく吸って呼吸の乱れを直しながら答えた。
「なんで…こんな事するんだよ」
葵先輩の声は怒りに震えていた。
そんな先輩の姿を見て、
「どうして…私ばっかりなの?」
虚ろな目のまま、ぽつりと言葉が溢れた。
「親にも愛を断たれて、周りの人も、みんな…みんなっ…私の事なんて愛してくれないっ…!」