理屈抜きの恋
「すすすすみません。こ、腰が抜けて…。」

「全く、仕方ねーな。よっと。」

彼女を抱き上げるのは慣れたものだ。
もっとも、彼女の身体は軽いからなんて事ない。
でも、彼女は慣れないらしくて、顔を真っ赤に染めた。

その表情を見ると今すぐにでも抱き締めてしまいたくなる。
でもグッとこらえて俺のデスクの上に腰掛けさせると、ちょうどキスのし易そうな、視線の合う高さになった。

「こ、ここは腰掛ける場所ではありません。降ります。」

「腰が抜けているなら、降りたら転ぶぞ?」

「そんな…」

「とりあえず落ち着くまでそこで手紙を読んだらどうだ?」

手紙を渡すとゆっくりそれを開き、目を通し始めた。

そんなに長い文章ではないのだけど、パーティーの時に彼女が介抱してあげた女性からのお礼の言葉に彼女は柔らかく微笑んだ。

あぁ、本当にマズい。
キスしたい。

でも、彼女はマスクをしているし、意識はお礼の品である生々しい蜂の子の瓶詰めに移ってしまった。

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