理屈抜きの恋
突然のキスは私から言葉を奪うのには十分で、唇が離れてからは副社長の瞳に吸い寄せられた。

「俺が女の扱い方を知らないかどうか試してみるか?」

眼鏡を取り、妖しく微笑むと副社長は一気に色気を纏い、私の身体をゆっくりソファに倒した。

私を見下ろす顔はキッチンで見た時よりも数倍、数十倍艶っぽい。

「も、本宮副社長?」

「涼。」

「え?」

「涼だ。」

「りょ、涼…さん?」

名前を呼んだその瞬間、副社長から艶っぽさは消え、纏っていた色気も無くなった。
その代わりに表れたのはやっぱり赤面。

「フッ。」

「な、なんで笑う?」

「すみません。涼さんは正直者なんだな、と思いまして。」

恋愛初心者だからこそ分かる事がある。
副社長は、女性経験は豊富でも多分、恋愛経験は少ない。
同じレベル、と言ったら相当怒られるだろうけど、名前を呼んだだけで色気が消えるなんて、呼び捨てにされてドキドキする私と変わらない。
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