理屈抜きの恋
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最上爽という男は、営業成績は優秀で、対人関係良好、素行に問題なく、明るく活発な色男だ。
はっきり言って悪いところなど何も見つからない。
撫子に告白した男という認識があったために一社員の事を調べ上げたのだが、その大人気なさよりもどうしてそんな完璧な男と撫子は付き合わないのか、ずっと気になっていた。
前に一度聞いたけど、あの時は来客のせいで聞けずに終わってしまった。
だから撫子の自宅まで車で送る時に、もう一度聞いた。
「最上の事はどうして断ったんだ?」
「好きになるだけ無駄だと思っていたからなんですけど…」
「けど?」
ちょうど赤信号で停止したのを機に撫子の方を向くと、彼女は照れたようにはにかみながら下を向いて言葉を続けた。
「本宮副社長を好きになった今、はっきり分かるんです。理由を付けても諦められない想いが恋なんだって。」
「え?」
「最上くんは確かにカッコイイし、良い人だし、素敵な人です。でも、私よりも相応しい相手がいる、私よりも最上くんを好きな人はいる、って思っていました。もちろん本宮副社長にもそう思いましたよ。好きな人がいるなら応援してあげようとも。でもそんなの頭で考えているだけで、心は違ったんです。急でしたけど、本宮副社長にだけはどうしても想いを伝えたくなったんです。」
夜遅い時間だったからお互いの顔色までは分からない。
でも、撫子の素直な言葉と照れたような笑みに胸打たれ、身体全身に電気が走った。