理屈抜きの恋
「最上くんっ!」
呆然とする俺には目もくれず、撫子は最上の元へ駆け付け、最上を抱き締めた。
それを見てさすがに呆然としているわけにもいかずすぐさま立ち上がると、いつの間にか横に来ていた鵠沼に肩を押さえられた。
「離せ。」
小声だけど強い口調で言う。
でも、鵠沼は首を横に振り、肩に置いた手の力を緩めない。
「神野さん、今の話、全部聞いていた。少しだけ扉が開いたの、気が付かなかった?」
最上の話を集中して聞いていたせいで気が付かなかった。
「ずっと震えていた。堪え切れなくて入って来ちゃった訳だけど、大丈夫。信じてあげなよ。」
何を根拠に、と言いたい所だけど、グッと堪え、撫子と最上に目を移す。
「最上くんのバカっ!どんな写真だって、ばら撒かれたって構わないのに。」
「撫子には嫌な思いをさせたくなかった。いつも笑っていて欲しかったんだ。」
「辛そうにしている最上くんを見る方が嫌だよ!」
「ごめん、撫子。本当に…ごめん。ごめん。撫子…ごめん。」
ただ謝り、名前を呼んでいるだけなのに、最上が狂おしい程、撫子を愛している事が声色でよく分かる。
痛いくらいに。
それは鵠沼も感じたようで、2人きりにしてやろうと部屋を出た。