理屈抜きの恋

副社長は言ってくれた。
私が幸せになれる道が他にあるのなら身を引くと。
私も同じ想いだ。

でも、いざ目の前にすると強い想いは簡単に揺らいでしまう。
それを見越した鵠沼さんが少しだけ扉を開けて先に中の様子を見てくれた。

「え?」

「ど、どうしたんですか?」

「あれ、男じゃん。なんだ。残念。」

「残念?」

「女だったらチャンスがあるかと思ったんだけど…って聞いていないね。何?あいつ何者なの?」

副社長の目の前に腰かけているのは最上くんだ。
その姿を見た瞬間に固まってしまった私を不思議そうに見つめる鵠沼さんに『彼は大事な同期です』って答えたかったけど、会話の内容に言葉を失ってしまった。

「神野さん?ねえ、大丈夫?震えているけど。」

鵠沼さんが見兼ねて私の肩を抱き寄せてくれたけど、涙を堪えるのに必死だった。
あんなにも自分を責めて、そして私を守ろうとしてくれていたことに気付きもしないで、私だけが幸せになっていたなんて。
身を折り曲げ叫んだ最上くんを見た瞬間、もう我慢の限界だった。

「最上くんっ!」
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