理屈抜きの恋
その声に驚き身を起こした最上くんの身体を抱き締める。
最上くんの身体は震えていて、私の名を苦しそうに何度も呼ぶ声に涙が溢れて止まらなかった。
副社長と鵠沼さんが出て行き、2人きりになると、私の鼻をすする音だけが室内に響く。
どれくらい泣いていたのだろう。
深呼吸をして気持ちを整え、最上くんを抱きしめていた腕を解くと、最上くんと正面から向き合う形になった。
「最上くん。ごめん。本当にごめんね。私と出会わなければこんなことにならなかったのかもしれないのに。」
「撫子のせいじゃない!撫子を好きになってから世界が変わったんだ。ただ色んなことが上手く行き過ぎていたんだよ。身の丈に合わなかっただけだ。本来の俺は目立たない普通の人間なんだよ。」
弱々しく微笑んだ最上くんを見ると、胸が痛む。
視線を逸らしたい衝動に駆られるけど、そんなこと出来ない。
俯いてしまった顔を両手で包み込み、無理矢理にでも視線を合わす。
「私、入社試験の時、最上くんは内定を貰えるだろうって思っていたよ。」
「どうして?あの時の俺は冴えないどこにでもいるような男だったのに。」