理屈抜きの恋
確かに入社試験の時に筆箱の中身をばら撒いた時の最上くんはどこにでもいるような目立たない普通の学生だった。
でも、筆箱の中に神社で購入したと思われる合格祈願のお守りが入っていて、それを渡した時に両手で包んだことと、初対面の相手に『緊張している』と素直に伝えたことは私の中でとても印象的でまた会えるのなら会ってみたいと思っていた。
2次試験の面接会場で一緒になった時は、雰囲気が変わっていて少し驚いたけど、清潔感漂う容姿や話せば誠実さが伝わってくる感じに改めて素敵な人なんだな、と思った。
だからその日の面接の帰り、最上くんを見つけて、面接内容にどう答えたか尋ねることにした。
「『仕事の出来ない後輩がいたらどうしますか?』の質問に、最上さんは何と答えましたか?」
「『最低でも自分と同じ程度の仕事が出来るようになってもらえるにはどうしたら良いか考えます』と答えました。」
その答えを聞いた時、この人は確実に受かると思った。
そしてこの人と一緒に仕事をしてみたいとも。
だから入社式で再会出来た時はすごく嬉しかった。
「俺も嬉しかった。初めて会った日からずっと撫子のことが好きだったから。」
「私も最上くんのこと、好きだよ。今も昔も変わらずに。」
「ありがとう。それを聞けただけで十分だ。」