理屈抜きの恋
「会長。最上の異動の件。なかったことにしましょう。」

「涼がそう判断したならそれはそれで構わんが、何かあったらお前が責任を持つことを忘れるなよ。」

「分かりました。おい。最上。聞いたか?俺に責任取らせるような真似するなよ。小田。最上がまたおかしくならないようにしっかり見張ってくれ。」

「分かりました。」

そう言って微笑み、部屋を後にした二人の姿を見ていたら、暖かいものが胸に広がった。

「涼。」

「ん?あ、まだいたんですか、会長?」

「なんだ、その言いぐさは。せっかく良いものをあげようと思っていたのに。」

「良いもの?」

「フン。これはお前にはやらん。神野くんにあげる。神野くん。こっちへ来たまえ。」

蕩けそうなほどの笑顔で撫子の方に向き直り、撫子を手招きした。
そして手に何かを渡すと、顔を近づけ、耳元で何かを囁いた。

「あ!おい、こらっ!撫子に近づくなっ!」

撫子は首まで真っ赤だ。
会長から引き離すと、会長はクククと笑った。

「嫉妬深い涼に飽きたらいつでもおいで。君ならいつでもウエルカムだから。」

「何言っているんだよ!用が済んだなら早く出て行けっ!」

半ば追い出すようにして部屋から出すと、急に二人きりという気まずさが広がる。
先ほどのやりとりでなんとなくどういう話があったのか分かってしまった分、何を話していいのか分からない。

会長が出て行った扉を見つめ、撫子がいる室内に体を向けずにいると、背中に撫子を感じた。

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