理屈抜きの恋
「イエ?」

まるで私の言葉など聞いてもいなかったような返答に声が裏返ってしまう。

「君の家の住所はどこだ、と聞いているんだ。一回で聞き取れるようになれ。そうしないと今後やっていけないぞ。」

普段の私ならちゃんと一度で言葉を理解する。ただ、理解の範疇を超えた時、頭は正常に機能しないのだ。

いや、例え正常に機能していたとしても、初対面の相手に家はどこだと聞かれて『はい、ここです』なんて答えられるはずがない。

「あの、ここまで運んでくださったこと、とてもありがたく思います。でも、あとは運転手さんにお任せして、勝手に帰りますから、本当にここで大丈夫です。」

「俺だって帰るんだ。早く行先を言え。」

そういうことなら各自タクシーに乗れば済むことだ。
後ろにタクシーが控えていないか振り向き確認する。
でも、あいにく出払っているようで、空車のタクシーは後ろには停まっていなかった。

「では先にあなたのご自宅の方へ行きましょう。」

「それは俺の家に来たいって言っているのか?別に来てもいいけど。手当くらいしてやるし。」

「はい?」

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