理屈抜きの恋
「遅かったじゃないですか。どこに行っていたんですか?」

「ごめん。靴擦れしちゃってトイレで応急処置していたの。」

「靴擦れ?やっぱり。大丈夫ですか?」

結婚式用の服と靴は細井さんと一緒に買いに行った。
その時、「その靴、足痛くないですか?大丈夫ですか?」「靴擦れ起きても知らないですよ」と散々言われたのを思い出す。

気に入ったから、と言って買った手前、靴擦れを起こしたことを言いたくはなかったけど、今になってみれば、警告をきちんと受けていればこんな痛みを味わう事はなかったのに。今更後悔しても遅い。

「でも、ストレートの長い黒髪ポニーテールに黒のワンピースに黒い靴なんてすごく大人っぽくて清楚で落ち着いた雰囲気ですよ。『撫子』っていう上品な名前にぴったりで最高に綺麗です!」

『撫子』というお嬢様を連想させる名前は、幼い頃好きではなかった。

ただ、撫子の花言葉が『純愛』だと知り合いに教えて貰ってからはこの名前が好きになり、名前に相応しい女性になりたい、純愛と呼べるだけの恋をしてみたいと思うようになった。

『純愛』を目指すあまり恋に慎重過ぎるのが問題なのだけど、名前のイメージをこうして手放しに褒めて貰えるのは普通に嬉しい。

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