理屈抜きの恋
急にイライラした様子に変わったのが分かり、慌てて身を乗り出し、タクシーの運転手さんにだけ聞こえるように小声で行先を告げる。
すると、私たちの掛け合いを聞いていた運転手さんは苦笑いを浮かべてから、タクシーを発車させた。

しかし、どうにも落ち着かない。
これじゃホストと同伴しているみたいだ。
足だけじゃなくて、頭も痛くなってきた。

「…おい。」

「…」

「おい、神野撫子!」

「え?あ、はい、なんでしょうか。本宮涼…さん。」

「…携帯。鳴っている。」

携帯?
もしかして、と思い、携帯の画面を見ると、そこに表示されている名前は予想通りの名前。

「最上くん…。」

「出ないのか?」

少し悩んだ末、首を横に振ると、本宮涼は私の携帯を取り上げ、その画面を眺めた。

「あ、ちょっと、何するんですか?!」

急いで取り戻そうと手を伸ばす。
でも、手の届かない位置に持って行かれてしまえば、取り戻そうにも取り戻せない。
伸ばした手が宙をさまよう。
< 41 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop