理屈抜きの恋
あえて『最上くんのキスシーンを見た』とは言わないようにしたのに、どうして自分から話しを振るのだろうか。
何て答えたら良いのか分からない。

視線を逸らし、黙ったままでいると最上くんは急に私の腕を掴み、会社までの道のりをただひたすら無言で足早に歩いた。
そして社内に入った途端、どちらの部署でもない方向へと進み、気が付けば誰もいない資料室に入らされた。

「ちょっと、どうしたの?突然。」

ドアが閉まるのを確認してから最上くんに小声で話しかける。
朝早い時間だからまだみんな出勤してはこないけど、万が一、この部屋に最上くんと入ったことを先輩に見られたら大変だ。
お互いのためにも変な噂を流される事だけは避けなくちゃいけない。
早く部屋を出たい気持ちをなんとか抑え、とにかく早く話してくれるよう促す。

「撫子。こんなこと言って信じてくれるかどうか分からないけど、俺、撫子が好きなんだ。」

「は?はい?」

思ってもみないタイミングでの告白に寝不足の頭が付いていかない。
これは現実?
それとも夢?
抓ってみたら痛いから、夢じゃないらしいけど、どうして急に?

「先輩とキスしているところを見たんだろ?でもそれは誤解だ。」

< 49 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop