理屈抜きの恋
沈んだ様子の最上くんを見ると私の一言で傷つけてしまったと胸が痛む。

「最上くん…ご…」

ごめん、と謝ろうとしたけど、最上くんは急に顔を上げて、私の言葉を最後まで聞かずに言葉を被せた。

「今朝の撫子、明らかに様子がおかしかった。初めは俺のせいかと思っていたけど、違う。あいつ、誰なんだ?撫子とどういう関係があるんだよ?」

いつもの温厚な最上くんとは違う、険しい表情を見たら少しだけ怖くて、言葉が出てこない。

何も答えられずにいた私の背後から男性の声が響いた。

「それは俺のことか?」

誰もいないはずの室内に響く声に驚いて最上くんと一緒にその姿を探すと、資料の納められた棚の陰から一人の長身の男性が現れた。

サラサラの黒髪に眼鏡、品の良さそうな整った顔立ち。
仕立ての良さそうなスーツは長い手足を存分に活かしている。
優等生を絵に描いたような人物。

「お前、誰だ?」

最上くんの疑問はごもっとも。
でも、この人、どこかで…。

「恩人を忘れたか?」

その低く甘い声と綺麗な瞳に合っていなかったピントが合った。
< 52 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop