理屈抜きの恋
それなのに、本宮涼はそんな不穏な空気を物ともせずに最上くんとの距離をさらに縮めた。

「君に告白した先輩。この子の存在をチラつかせれば要求が通ると思ったんだろうな。」

「要求?」

「俺だったらキスなんてしない。」

その一言に最上くんが素早く反応した。

「じゃあ、あなたならどうしましたか?好きな子を守る為に何もしないでいるんですか?俺は撫子を守る為ならキスくらいします!」

その言葉は嬉しいけど、何か違う気がして素直に喜べない。
何となしに本宮涼の方を見ると、本宮涼も私の方を見ていて、含みのある笑みを寄越した。

「キスはな、好きな女にだけするものだ。例えばこんな風に。」

「…んっ?!」

昨日、タクシーの中で引かれたように、グイッと腕を引かれ、本宮涼の方へと身体が移動すると、その勢いのまま唇に柔らかい感触を押し付けられた。

初めてのその感触に、離れても暫くは何が起きたのか、理解出来なかった。

私の口紅の乱れをサッと指で直してくれた本宮涼の姿を見てようやくキスされたのだと気が付いたけど、気が付いたことにより、怒りと恥ずかしさが一気にこみ上げてくる。
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