理屈抜きの恋
「あの人、どうかしたんですか?」
一人の女性がしゃがみ込んでいるのが見て取れるけど、何をしているのかは遠目からでは分からない。
とりあえず近くにいた人に聞くと、「イケメン2人を目の前にして鼻血が出たらしい。」というとんでもない答えが返ってきた。
「興奮して鼻血が出たって事ですか?」
「そうみたいだね。いや、僕も君を見ていたら鼻血が出そうだよ。」
こんな時に変な冗談言わないで欲しい。
彼女の周りの人たちは急な流血に引いてしまい動けないでいるんだ。
あのままじゃ見せ物になってしまう。
やけに近付いて来ていたおじさんにウーロン茶を渡し、急いで女性に近づく。
すると次の瞬間副社長がその女性を抱き上げた。
「いたっ?!」
何故だか分からないけど、その姿を見た時、胸がチクッと痛んだ。
痛む部分を押さえながらも近付くと副社長が私に気が付いた。
「撫子!そこの椅子持ってこっちに来い!」
『撫子』なんて初めて呼ばれた。
いつもは『おい』とか『お前』とかなのに。
でもその衝撃で痛んだ胸が息を吹き返すようにドクンと跳ね、熱くなる。
そしてそれを機に椅子を運び、副社長の近くに置くと、副社長が女性を静かにそこへ降ろし、頭を上げさせようとした。
「あ!頭は下げた方が良いです。」
「そうなのか?」
副社長に変わり、その女性のそばに寄り、顔を下げるよう伝える。
「あと、小鼻の部分を強めに押さえると良いのですが…ご自分で摘めますか?」