理屈抜きの恋
「おはようございます。先日はご迷惑お掛けして、すみませんでした。これ、ドレスと靴とお礼の気持ちです。」

出社と同時に渡されたのはクリーニングの袋に包まれているドレスと丁寧に箱に入れられた靴。そしてお礼の品が入った袋。

鼻声はだいぶ改善されているけど、マスクは外さない。
治っていないのなら無理はせずに休んでも構わなかったのに。
そう伝えても、頑なに首を横に振る。

「じゃあ、無理はするな。あと、ドレスと靴はスーツと一緒に持って帰れ。」

「あ!スーツ…すみません。クリーニングまでして頂いて。でも、ドレスは受け取れません。」

謙虚さもここまでくると少々イラつく。
でも、それは俺のお門違いだ。
自分の不甲斐さを彼女にぶつけるのは間違っている。

言ってもしょうがないと諦め、目の前に差し出されたドレスの入った袋を一度受け取り、スーツと一緒に渡す。
するとしぶしぶ、といった感じで受け取ってくれた。

「それで、体調の方はどうなんだ?」

「ちゃんと薬を飲みましたからもう大丈夫です。マスクは念のためです。」

「お父さんは医者か?」

「はい。母は看護師です。」

あの場にいた女たちが血に動揺して全く動かなかった中、あの時のテキパキとした行動には驚いた。

医学の知識は親譲か。
そして彼女自身の慈愛の精神。
改めてすごい女だと思った。
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