【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
戦闘訓練
 家康はなかなか言うことを聞か
ない秀秋に業を煮やしたが再度使
者を送り、東軍が勝った時には備
前と美作を封ずると言ってきた。
 それでも秀秋はしばらくのらり
くらりと受け流し、ようやく使者
に家康の出兵要請を受け入れると
伝えた。そして稲葉に戦の準備を
するように命じた。その日から秀
秋は巻狩りを装って部隊の軍事演
習を行うようになった。
 日の照りつける中、陣形を確認
して、騎馬隊と足軽が一体となっ
て移動するよう何度も走らせた。
 夜は草むらに這い、索敵の訓練
を繰り返した。
 軍事演習の合間には巻狩りで
獲ってきたイノシシやウサギなど
で栄養をつけ、交替で休息した。
 秀秋の部隊は豊臣家、小早川
家、家康に送り込まれた浪人たち
の混成部隊だったので、まとめる
のは難しかった。
 皆、年齢も体力も考え方も全て
違う。だから秀秋は思想を一つに
統一しようとは考えなかった。
 対立が起きるのは違いを認めず
自分の思想や知識を押し付けよう
とするからだ。この時代は世界が
平だと思われていたものが丸いと
気づき始めていた。しかし世界は
人が誕生する前から丸いのだ。人
の思想や知識で変わったわけでは
ない。そんないい加減な人の思想
や知識などを統一するのは調和を
乱し発展を遅らせてしまうだけ
だ。
 宗教にしても宗派によっては考
え方が違う。もし統一できるのな
ら世界は一つの宗教でいいはず
だ。
 家臣一人一人に特徴がある。秀
秋はその特徴を生かせる役割に就
かせただけで他は干渉しなかっ
た。どういう思想をもっているか
好きか嫌いかは関係ない。
 例えば巻狩りでは、走って獲物
を追い回す者、待ち伏せする者、
獲った獲物を料理する者、中には
食べるだけの者もいたがその者は
巻狩りという仕事には役割がな
かっただけで、別の仕事で役割を
見つければいいことだった。これ
を皆、同じ役割にしたり役割を無
理やりおしつけたらどうなるか。
そのことに気づけば対立はなくな
る。秀秋はそれを実践した。する
とそこには豊臣家、小早川家、家
康に送り込まれた浪人の区別はな
く、秀秋と共に戦う一糸乱れない
部隊が誕生した。
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