【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
形勢逆転
 秀秋は複雑な気持ちで吉継を見
ていた。そして情けを断ち切るた
め面頬を着け、槍を持っと合図を
だして、全部隊を大谷隊にぶつけ
た。
 吉継の乗った御輿は混乱の中か
ら湯浅五郎の先導できりぬけるの
がやっとだった。
「負けたのか。秀秋、どんな手を
使った」
 吉継は負けた悔しさよりも秀秋
の戦いぶりに心を揺さぶられた。
(じかに見たかったのぅ)
 そう悔やみながら吉継は自刃し
て果てた。

 秀秋は大谷隊の崩れていくのを
確認すると、その勢いのまま西軍
の島津隊に向かうよう叫んだ。
「島津を攻めよ。われに続け」
 その途中、稲葉、杉原に合図を
送り東軍が苦戦していた西軍、宇
喜多秀家隊攻撃への応援に向かわ
せた。
 東軍は大谷隊が総崩れになると
気勢をあげて西軍に襲いかかっ
た。
 火箭の攻撃で苦しめられた島津
隊に次々と東軍の井伊直政、松平
忠吉、本多忠勝らの部隊が押し寄
せる。それに混じって小早川隊が
島津隊を飲み込んでいった。
 逃げ場を失った島津隊は後退す
ることができず、やむなく残った
火箭を発射した。すると東軍の部
隊が業火に包まれ、そこから逃げ
るように二手に分かれた。その業
火に飛び込むように島津隊が突き
進んで逃亡をはかった。
 秀秋は総大将として参加した朝
鮮出兵で島津義弘が命令に従わな
かったことを思い出し、その悔し
さから我を忘れて猛追した。その
勢いは誰にも止められなかった。
 秀秋の意志が乗り移ったように
小早川隊は島津隊を執拗に追っ
た。そして秀秋はそのまま関ヶ原
を退去するように小早川隊に合図
を送った。
 戦では何が起きるか分からな
い。特に終わりかけの混乱で家康
が小早川隊を攻撃する可能性も
あったからだ。
 家康の目の前を島津隊がかすめ
て駆け抜け、その後からすぐに秀
秋を先頭に小早川隊が駆けていっ
た。
「やつを追え」
 家康が後ずさりしてしりもちを
つきながら叫んだ。しかしその言
葉は家臣には聞こえなかった。
 側にいたアダムスは日本人の戦
い方の多様さに呆然とし恐れさえ
感じていた。
< 119 / 138 >

この作品をシェア

pagetop