【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
秀詮の秘密
秀詮が狂いだしても医者には原
因を調べる方法もなくどう対処し
ていいか分からない。ましてや家
臣や領民に医学の知識などなく、
秀詮が徐々に異常な行動をし始め
ると、原因が分からずただ恐れる
ばかりだった。
こんなことがあると人は祟りな
どの神がかり的な力としか考え
ず、それを疑うこともなかった。
料理番は秀詮の発狂が深刻になっ
ていくのを確認し仲間達を呼ん
だ。
しばらくすると秀詮の噂が広ま
り始めた。
「今度来た新しい殿様が狂いだし
たそうな。なんでも殿様は関ヶ原
の合戦で西軍を裏切ったとかで、
それがもとで、死んだ総大将の石
田三成様が恨んで祟っているらし
いぞ」
悪い噂は尾ひれが付いて、あっ
という間に広がった。
「殿様は阿呆だから西軍と東軍の
どっちに味方したほうがいいか分
からんようになって、味方の西軍
を攻めたらしい。負けた総大将の
石田三成様はたいそう恨んで死ん
だそうな。それで祟られとるん
じゃと」
しかしこの発狂は芝居で、秀詮
は家康から備前と美作を与えられ
た時から警戒していた。
荒廃していた領地を復興させれ
ば家康からその能力を警戒され
る。かといって荒廃したままにし
ておけば処罰する大義名分を与え
ることになる。どちらにしても生
きる道はない。そこで秀詮は藤原
惺窩に伝授された帝王学の教えを
実際に試してみることを選び、そ
の結果、目覚しい復興を遂げたの
だった。
「これほどまでに効果があったと
は」
惺窩は自分の学問の凄さが実証
できたことを喜んだが、反面、秀
詮の身の危険を案じた。
「どのみち目をつけられるのな
ら、先生の学問が実を結んだこと
だけでも後世に伝われば本望で
す」
秀詮はすでに覚悟を決めてい
た。しかし、どうしても護りた
いものがあった。
秀詮と正室の間に世継ぎとなる
子はいなかったが、誰にも知られ
ず囲っていた側室に一男がおり、
また、もうひとり身ごもっていた
のだ。
因を調べる方法もなくどう対処し
ていいか分からない。ましてや家
臣や領民に医学の知識などなく、
秀詮が徐々に異常な行動をし始め
ると、原因が分からずただ恐れる
ばかりだった。
こんなことがあると人は祟りな
どの神がかり的な力としか考え
ず、それを疑うこともなかった。
料理番は秀詮の発狂が深刻になっ
ていくのを確認し仲間達を呼ん
だ。
しばらくすると秀詮の噂が広ま
り始めた。
「今度来た新しい殿様が狂いだし
たそうな。なんでも殿様は関ヶ原
の合戦で西軍を裏切ったとかで、
それがもとで、死んだ総大将の石
田三成様が恨んで祟っているらし
いぞ」
悪い噂は尾ひれが付いて、あっ
という間に広がった。
「殿様は阿呆だから西軍と東軍の
どっちに味方したほうがいいか分
からんようになって、味方の西軍
を攻めたらしい。負けた総大将の
石田三成様はたいそう恨んで死ん
だそうな。それで祟られとるん
じゃと」
しかしこの発狂は芝居で、秀詮
は家康から備前と美作を与えられ
た時から警戒していた。
荒廃していた領地を復興させれ
ば家康からその能力を警戒され
る。かといって荒廃したままにし
ておけば処罰する大義名分を与え
ることになる。どちらにしても生
きる道はない。そこで秀詮は藤原
惺窩に伝授された帝王学の教えを
実際に試してみることを選び、そ
の結果、目覚しい復興を遂げたの
だった。
「これほどまでに効果があったと
は」
惺窩は自分の学問の凄さが実証
できたことを喜んだが、反面、秀
詮の身の危険を案じた。
「どのみち目をつけられるのな
ら、先生の学問が実を結んだこと
だけでも後世に伝われば本望で
す」
秀詮はすでに覚悟を決めてい
た。しかし、どうしても護りた
いものがあった。
秀詮と正室の間に世継ぎとなる
子はいなかったが、誰にも知られ
ず囲っていた側室に一男がおり、
また、もうひとり身ごもっていた
のだ。