【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
宗易の説得
「宗易も父上が転生したという子
のことを存じておるのか」
「城内でそのような噂があったこ
とは知っていますが、今はぱった
りと聞かなくなりました。最近、
辰之助という三歳になるお子が秀
吉様の養子として迎えられ、たい
そうかわいがられておるようで
す。そのお子が信長様の亡くなら
れた年に生まれたということでそ
のような噂が流れていたのでしょ
う」
「しかしその子は父上の南蛮甲冑
に金が埋めてあることを知って
おったぞ。もしかして父上はまだ
生きていて秀吉の所にいるのでは
ないのか」
「それは絶対にありません。もし
そのようなことがあれば秀吉様が
小躍りして世間に触れ回っている
でしょう。南蛮甲冑のことは不思
議ではありますが、やはり誰かが
知っていたことを噂したとしか思
えません」
「そうであろうか。やはり家康殿
が申されたように秀吉の術中には
まるところであったか」
「そうでしょうか。秀吉様は裏表
がなく分かりやすいように存じま
す。秀吉様は本心をさらけ出され
るので、それを恐れる心が不信を
抱かせるのではないでしょうか。
私には家康様こそ何をお考えかと
んと分かりかねます」
「……」
「明かりは物をよく見せますが影
があります。その影だけをみて何
も見えないとはいえません。逆に
暗がりは影ができませんが、そも
そも何も見えていません。秀吉様
は明かりのように良い部分も悪い
部分も見えていますが、家康様は
暗がりではないでしょうか」
のことを存じておるのか」
「城内でそのような噂があったこ
とは知っていますが、今はぱった
りと聞かなくなりました。最近、
辰之助という三歳になるお子が秀
吉様の養子として迎えられ、たい
そうかわいがられておるようで
す。そのお子が信長様の亡くなら
れた年に生まれたということでそ
のような噂が流れていたのでしょ
う」
「しかしその子は父上の南蛮甲冑
に金が埋めてあることを知って
おったぞ。もしかして父上はまだ
生きていて秀吉の所にいるのでは
ないのか」
「それは絶対にありません。もし
そのようなことがあれば秀吉様が
小躍りして世間に触れ回っている
でしょう。南蛮甲冑のことは不思
議ではありますが、やはり誰かが
知っていたことを噂したとしか思
えません」
「そうであろうか。やはり家康殿
が申されたように秀吉の術中には
まるところであったか」
「そうでしょうか。秀吉様は裏表
がなく分かりやすいように存じま
す。秀吉様は本心をさらけ出され
るので、それを恐れる心が不信を
抱かせるのではないでしょうか。
私には家康様こそ何をお考えかと
んと分かりかねます」
「……」
「明かりは物をよく見せますが影
があります。その影だけをみて何
も見えないとはいえません。逆に
暗がりは影ができませんが、そも
そも何も見えていません。秀吉様
は明かりのように良い部分も悪い
部分も見えていますが、家康様は
暗がりではないでしょうか」